9月の中旬と言えどもじんわりと暑さが残る中、日が落ちかけた街をふたりで並んで歩く。隣から少し伺える緊張の色には見て見ぬふりをして、目的地へと足を進めた。
角を曲がったら、ビルが夕日を反射して一面オレンジ色に染まる。眩しそうに目を細めた彼女に丁度いいじゃない、ロマンチックでと謳えば眉を下げ笑った。
「じゃあ、和巳ちゃん。お誕生日おめでとう」
ゆったりした音楽が流れる静かな店内、海が見えるテーブルを挟んで向かい合い、小さなグラスで乾杯。
「チープすぎず堅苦しすぎないお店を選んだんだけど、気に入って貰えたかしら?」
「勿論だよ、ありがとう。……さすが昴って所だね」
「ふふ、一体何が?」
「そのやり方が」
ふうん。紫紺の眸をじっと見つめていたら、少し照れたみたいに反らされた。
今日は彼女の誕生日、本来なら家で祝福を受けるべきであろう和巳ちゃんを連れ出したのは、彼女の一人暮らしという境遇にかこつけてのことだ。
同じ学校、同じ部活、そんな簡単な一言では言い表せないような気がするのは私だけかしらね。元は私が彼女に声をかけたのが始まり、それまでは同じチームであるというのに関わり合うことさえも少なかったのだけれど。
窓から見える海が照らされてきらきらと揺れている。きれいだねと呟く和巳ちゃんの髪もまた、深い海の色。
「あら、あなたも綺麗よ?」
ほら、また困った顔をした。「女子同士の、その特有の褒め合いが好きじゃないのは昴も同じだろう?」なんて言って、眉を潜める。「それよりも、素直に私の言葉を受け入れてくれない貴方の態度の方が、今は好ましくないわ」少し迷った後に、ありがとうと彼女ははにかんだ。
篠宮和巳の飾らない雰囲気と、この年代の少女としては珍しいとも言えよう大人びた態度が好きだ。落ち着いたトーンで話す声もまた然り。孤高、とは少し違うかしら……思案しながらフォークでトマトをつつく。
「……そんなにじっと見ないでくれると有難いんだけど」
からかい甲斐のある所も、ね。クスリと笑みを溢すと一層怪訝そうな顔。こういう彼女に、あいつらも惹かれたんだろう。脳裏に過ったのは二人の少年、まったく罪作りな子だこと。
きれいになったお皿が下げられてさっぱりしたテーブルの上、用意していた小包を差し出した。目を丸くする和巳ちゃん。まさか、食事に連れていくだけで終わるハズないじゃないの。
「開けてみて」
「、ああ」
リボンをほどいて、しなやかな指が華奢なストラップをつまみあげた。控えめに散りばめられた小さな宝石達の色は、海を彷彿とさせるそれ。
「わ、きれい……」
ああ、ずっとこの瞬間が見たかったの。
和巳ちゃんの紫紺の眸の中では、夕日のオレンジを乱反射する蒼い宝石がきらめいていた。ちらちらと舞う光を閉じ込めて、瞬く。
こんな光景を独り占めしたと知れたら、立向居とフィディオに怒られるかもしれないわね。……ま、彼らは彼らなりに彼女のきれいを噛み締めるのだろう。少なくとも今は、私と和巳ちゃんの時間だ。
「ハッピーバースデー和巳ちゃん。貴方が生まれて産まれてきてくれたこと、嬉しく思うわ」
「ありがとう、昴」
眸をゆっくり細めて、和巳ちゃんは綺麗に笑って見せた。
Happy Birthday Kazumi!(I was sure that there was nobody she could not defeat just at that time. )
2012.9.16
(おまけ)
「和巳ちゃん!」
「翔?どうしてここに」
「決まってるでしょー、和巳ちゃんの誕生日だからだよ!」
「そんな、わざわざ……」
「ううん、私の時も祝いして貰ったし、ね!私は和巳ちゃんみたいに素敵なお祝いは出来ないけと、はいこれ。お誕生日おめでとう!」
「ありがとう。……これ、ミサンガ?」「うん、和巳ちゃんに似合うと思って!」