「なんでこうなるかなあ……」
本当にね。遠くで鳴り響く音楽と喧騒が混じる。文化祭2日目、朝。埃っぽい空き教室。俺はリラにメイクを施されていた。
「病み上がり組」は準備期間の負担が軽く、かつ当日欠けても出し物が回る係に配置を。その結果俺は、空いている時間帯の接客担当に。リラは借用衣装を運搬・管理するだけの衣装係になった。俺に至っては、1日目は部の出し物にも顔を出させてもらったから、クラスの仕事はほぼないに等しかった。
でも、1日目の終わり。どうやら、A組の執事喫茶の盛況、演劇で披露した丸井のドレス姿を見て何かを閃いてしまったクラスメイトが、こんなことを言い始めたのだ。
「うちも女装しない!?」
女子中学生の、こういうことに関する団結力、負けず嫌い、食いつきは、本当にすさまじい。あれよあれよと話は進んでいった。途中リラがにべもない口調で「衣装ないよ。あとメイクとかも」とつぶやき、水を打ったように場が静まり返る。だけどすぐに「私買ってくる!」「私新品のコスメある!」と活気を取り戻した。
あの保健室の一件からこの時まで、リラと俺の関係はあの補講の日々に逆戻りしてしまっていた。
おはようと言う時の顔がまたこわばるようになった。
俺を見つけた時、俺に見つかったとき、また「げ」というような表情をするようになった。
休み時間には友人の席に移動してしまい、おしゃべりはこっそり聞くこともできなくなった。
軽口を言う隙すら与えず、事務的に会話をするときの口調は棘ついて、帰りの挨拶はしてくれなくなった。
だから、リラがこの流れを止めに入ろうとしたとき、二度見してしまったくらいだ。単に、自分の面倒を避けたかったのか?思案していたら。はあ、とリラは息をついて、前を見据えて俺とは目を合わせないままに「ごめん、止めらんなかったわ」とこぼした。
俺の陰口は慣れない嘘をついてでも止めに入る。俺が内心嫌だなあと思ったことは、関係が険悪になっていても防ごうとする。
自分の誤解は解かない。自分への批判は手のひらを固く握ってやり過ごす。
この人は、知れば知るほど。
してもらったことの数々が渦のように蘇って、決まりの悪さを覚えた。
俺は、リラに何ができるって言うんだろう。リラにとって何者でもない俺に。
文化祭2日目、朝。突然増えたメイク係の女子たちが、俺のメイク担当を巡ってくじを作っているのをみてひどく居心地が悪い気分になった。そんな時、タイミングよく、別の男子のメイクを終えたリラが戻ってくる。ちょうど俺で最後らしかった。
気づいたら、リラの元に足が向かっていた。目の前につかつかとやってきた俺に、リラはあからさまに視線を逸らす。強引に腕をつかむ。
「リラ、メイク」
「は?」
「俺にして」