※高校生設定
ただいま、とお日さま園の戸を開けると私の予想していた通りの賑わいだった。甘い香りは嫌いじゃないけど、いくらなんでも甘すぎるそれがもう嗅ぎ飽きたというのにお構い無しにまとわりついた。次々と返ってくる「おかえり」の言葉からもテンションの高さが伺える。
それと私がさっきから気になっているのは、いつもなら広場からひょっこりと顔を出して「おかえり」と微笑むあいつの姿が見えやがらないこと。いつも付けていたミサンガを外した時のような、あの違和感。
いい度胸ね、私の愛情が欲しくないのかしら。
取り敢えず荷物を置きにと部屋へ戻るとその疑問は直ぐに解決された。大方予想のついていた答えは私の加虐心や、純粋に恋人としてつまらなく思う気持ちや、その他もろもろを膨らませるのには充分に思えた。
「噂は聞いていたけれど大層な貰いようね」
「ああ、おかえり昴。晴矢も風介もこんな感じで」
「ふうん。あら?なあにその物欲しそうな目」
「わかってるくせに」
案の定と言うべきか、ヒロトの部屋には可愛くラッピングされたチョコの山ができていた。開けっ放しのドアから作為的な何かを感じたりする。
隣に腰を下ろして適当に漁ると、クオリティの低い手作りが大半だが中には高いブランドの箱がちらほら。
「ふーん、年上からも貰ってるのね」
ピエール・エルメにゴディバ、ラデュレ、デメルなんてのもある。
「なんでわかったの?」
「普通こんなブランドは年上くらいしか選ばないでしょう」
「そうかな。昴も選びそうだけど」
「それ誘導尋問?」
「まあね。玲名にはあげてたのに、俺にはくれないの?」
「このチョコ山見るとモチベーション下がるわよねー」
私がそう言うとなんで、と首をかしげるのでさっきランダムに抜き取ったデメルの箱を突き付けて、愚問ねと言ってやった。
「あんたがチョコを沢山沢山貰ったことで私のチョコの希少価値が下がるからよ。いくら恋人からのものと言っても結局はこいつらといっしょくたに胃袋に入る、この辺が癪で癪で仕方ないわ」
ぽい、と持っていた箱をチョコの山に投げて戻す。虚しい音を立てて他の小包やらと紛れてしまったそれは、私が言った台詞を比喩するようだった。
「昴らしい言い分だね。まあそんなこと言わずにさ、」
引き寄せられて髪にキスが一つ降ってくる。確か、思慕を意味していた気がする、髪へのキス。これだけ貰ってまだ欲しいなんて、ね。ああ楽しい、もうちょっと焦らしたいわ。
「基山くんひどーい。あたしは他の男から貰ったチョコ食べるつもりなんかないのにねー」
「……やっぱり昴もチョコ貰ったんだ」
「まあね。貰えないと思うと逆に渡してくる奴らが」
「捨てるの?」
「皆にあげるわ。玲央くんとか見境なく消費してくれるし」
まあ高そうな品は私がおいしく頂くけど。だって折角私のことを想って高いお金はたいてくれたんだから、それは食べてあげないといけないわよね。なんて心で呟いて。
「そうそう、ベトナムではバレンタインは男性が女性に尽くす日なんですって」
「ええ!?」
「私に尽くしなさい」
「え、いや別に嫌じゃないけど、っていうかどうしてそんな話に……」
「冗談よ。ただ海外の風習にあやかろうとしてるのは本当」
ポケットをまさぐると確かな感触が指先に伝わった。例年通りに飽きた私のバレンタインデー。至極単純だけど見たところ他の子達とも被っていなかったようだし、正解だったみたいね。
「今年は随分焦らしたね、」
「そうね、んーじゃあ目でも瞑っときなさい」
そうして素直に従った端正な顔に期待の表情が浮かんでいる。
因みに海外ってどの辺?たぶんヨーロッパあたり……言っとくけどベトナムほどイレギュラーなものじゃないわよ。うん、いいよ、なんでも嬉しい。
「はい装着。もういいわよ」
「わ……これ、ペンダント……?」
「そ。バレンタインって本当は贈り物とかでもいいらしいのよ。そう言えばアクセサリーまだあげたこと無かったなーと思って」
「すご……これ、センスいいね昴」
僅かに放心気味の、恍惚とした表情は私を得意気にさせた。
どこか昔の、小さい頃のヒロトを思わせる表情。昔と違うことは、ヒロトがお父さんじゃなく私を見ていること。幼いながらに感じとった、ヒロトからお父さんへのまっすぐな愛情や執着が今私に向けられていることを、考えるまでもなく理解している。
その愛情が、ずっと私に向いていてくれればと思う。思うから、私はいつだって輝ける私でありたいのだ。
「ハッピーバレンタイン、言葉では表せないくらい大好きよ、ヒロト」
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最後まとまんなくて投げた
ヒロすばはおしゃれな(悪く言えば気取った)恋というか、二人とも本読みなイメージなので会話中にコアな知識が飛び交ったり議論してたりしたらいいなと思います。何の話?
アングレカム:花の名前
花言葉は祈り、いつまでもあなたと一緒