7.

 あれから、一言も口をきいていない。

 補講の最終日。8月16日。明日からテニス部の全国大会が始まるらしいというのは、幸村からではなく、補講の担当教師が彼を鼓舞する言葉で察した。

「幸村には分かんない」

 結局あの後、いよいよその場にいられなくなった私は体調不良を理由にその日の補講を休んだ。休んでも、その次の日以降も変わらず二人きりの補講なので、あまり意味はなかった。

 幸村は日ごとに張り詰めた空気をまとうようになっていた。それは私との一件によるものではなく、大会スイッチみたいなものが入っていったためだと、はたから見ても分かった。

 これまでに、幸村からテニスの話を聞いたことがない。一度だけ、まだ私たちの間に半ば一方的な会話があったころ。補講の休み時間に、テニス部員が訪ねてきたことがあった。赤みかかった明るい髪に、幸村と同じ黒いリストバンド。息を切らしドアを開けた彼が、教室に二人だけの光景にやや面食らった顔をした後「幸村くん、あかやが」と慌てた声を出した。幸村はその人を「まるい」と呼んだ。その後彼らは私に気を遣ってか廊下を出て話し始めたので、結局「あかや」に何があったのかは知らない。

 ただはたと目に入ったまるいくんが、顔をこわばらせた後、何かをのみ込むような面持ちをして走り去っていったのを覚えている。戻ってきた幸村は、温度のない、石のような眼をしていた。それを見て以来、私は幸村にテニスの話題は振らないと決めている。

 最後のコマが終わって教師が出て行った。終わった、やっと。静かに息をつく。これでようやく、今までの無関心なクラスメイト同士に戻ることができる。

「ねえ、東雲」

 どこか懐かしくすら感じる、気軽さを感じさせる声色で、幸村がそう言った。これまで私たちの間にあった出来事を考えると、何もかもがあまり唐突でちぐはぐだったので、理解するのに時間がかかった。

「いよいよ全国大会なんだ、俺。励ましてよ」

 何を言われるかと思えば。ますます不可解な言動に私はただ面食らった。思わず「知らねえよ」なんて言葉が出てしまったくらいには。

「つれないこと言うなよ」

「必要ないものをついでに求めるなよ……」

 さすがに角が立つ言い方をしてしまった自覚があったので、また険悪に会話が終わるかと思っていた。しかし幸村は気にも留めず、軽口をたたくように応戦した。つられて私もぽんぽんと言葉を返してしまう。

「励まされなくても勝てるのはその通りだけど」

「何なんだよその自信」

「……人事を尽くしてるからね」

 かと思えば、またあの石のような瞳。今までも何を考えているんだかよく分からない奴だったけど、今日はひときわ分からなかった。私とのこの会話に、幸村は何を求めているんだろうか?

「……私、あんたにあげられるものなんかないよ」

 何が望みかハッキリ言え。暗にそう伝えると、幸村はすこし眉を上げた。