罰が、当たったのだろうか。
あの幸村入院号外のあと、ほどなくして私の日常は思い出したくもない苦痛でまみれていった。大会の成績も伸び悩み、部活に足を運べなくなり、クラスに足を運べなくなり、入院して休学して、恋人とは別れ、ただ日々が過ぎた。唯一の救いは、私の身を案じた弟がすっ飛んで帰ってきたことくらい。
今更どこに復するのか到底検討もつかないまま、私は今、復学前最後の検査入院のために病院を訪れている。睡眠時の脳波検査。1泊、寝て食べて寝るだけの何ともみじめな入院だ。みじめではない入院などないかもしれないが、なんだか「怠け者」のような自意識に苛まれながら、仲間外れのような気持ちで院内を歩く。昼食を終え、日中の睡眠検査のために自分の病室に戻るところだった。
べしゃり、なにかが床に叩きつけられる音と、それに混じったひしゃげたうめき声。間髪入れずに「大丈夫ですか」と看護師の声が続いた。廊下の壁に掛かった地図を見やると、この近くにリハビリ室があるようだった。睡眠検査の設備まで備えている大きな病院だ、リハビリに励む声がリハビリ室の近くで聞こえることに何ら不思議なことはない。わざわざそちらを見やる方が不躾だろうと、気に留めず通り過ぎようとしていた。
それができなかったのは、「大丈夫です」と看護師に返答したのが、どこかで聞いたことのある、少し掠れた、独特の澄んだ声だったからだ。
弾かれたように声の方向を振り返ると、浅緑の入院着を着た背中が見えた。決して華奢ではない、しかし骨ばった弱弱しさが目に付く背中。
「ゆきむら」
殆ど吐息に近いような、声になり損ねた音がこぼれおちた。幸村はこちらに気づくことなく、立ち上がろうとリハビリ用のスロープに手をかける。よく見ると、浅緑を背負う背中はぐっしょりと汗で張り付いていた。スロープを握りしめる手は、骨と血管が荒々しく浮き出て、わなわなと震えていた。
気づくと私は自分の病室に逃げ帰っていた。きっと幸村はリハビリを遂げ、テニス部に舞い戻るだろうとなぜか確信していた。じゃあ私は?復学。今更どこに復するというのだろうか?わたしだけ、情けない、寝るだけの入院。そんな負い目のようなものがますます強くなっていた。その日の光景は脳裏に焼き付き、睡眠検査ではひどい金縛りにうなされた。そのせいで再検査を告げられ、半日分延びてしまった退院の瞬間まで、一歩たりともリハビリ室の近くには寄り付かなかった。