手に握った小さな紙袋が揺れる。中から覗くタオル地のハンカチ。緊張とわくわくと、少しの不安が入り混じった気持ちで、俺は教室に向かう階段を上った。
昨日は長い一日だった。東雲の前であろうことか大泣きしてしまった俺は、結局あの後慌てて顔を洗い、目を冷やし、屋上から駆け下りて、なんとか取り繕って教室に向かった。クラスメイト達は少し息を切らして登場した俺を見て、お疲れ様、惜しかったね、カッコよかった、退院おめでとう、口々に声をかけた。ちらりと東雲の方を見やると、あの屋上での出来事は夢だったんじゃないかと思ってしまうくらいに、無関心な様子で本に視線を落としていた。
ようやくクラスメイトの労いのラッシュが終わったと思ったら、あれよあれよと始業式。いつものように部活動の好成績者の表彰。でも、いつもと違うところが2つあった。1つめは、俺たちに向けられた言葉が「”準優勝”おめでとう」だったこと。2つめは、いつも同じ壇上に並び立っていた東雲がいなかったことだ。向けられる拍手がむず痒くなって、横にいる真田の顔を盗み見ると、真田も俺を盗み見ていた。俺の顔を見た真田は何を思ったのか少し目を丸くして、正面を向き直る。つられて前を見て、ふと下にいる東雲を見やった。また退屈そうにしているかと思ったら、まっすぐこちらを見て拍手をしていたので、驚いて目をそらした。
始業式を終えて教室に戻ったあとは、クラス委員を決めて、課題を提出して。俺は当然課題の対象外なので、少し仲間外れみたいな気持ちを覚えた。東雲も同じ気持ちだろうかと思って振り返ってみたけれど、近くも遠くもない微妙な席に座っている東雲は、他の生徒に隠れて見えなかった。ああ、どうしようもなく他人。諦めないと強く決めた矢先、先が思いやられる。肩を落としていたけれど、その日の最後、革命が起きた。
新学期初日最後のお楽しみ。席替え。俺と東雲は窓際の一番後ろの席で、隣同士になったのだ。神様の思し召し、運命のいたずら……ではなく、これは単に教師の気遣いだった。東雲はまだ授業中に症状で眠ってしまう可能性を考慮して、目につかない窓際の一番後ろ。俺もまあ似たような理由、かつ一緒に補講を受けていた仲間同士ということで、その隣。くじ引きの番号札、後ろ2連確定のチケットを教師から真正面に手渡された時は、潔くて笑ってしまった。東雲はものすごく気まずそうな顏をしていたので、ちょっと意地悪をしてからいたい衝動にかられたけど、かなわなかった。東雲の制服の右肩、今朝俺が寄りかかった場所にほんのりとシミができているのが、下ろした髪の隙間から見えたから。